東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1220号 判決
証拠を綜合すると、本件自動車は長さ七、四五米、幅二、三五米、高さ二、七五米の大きな箱型のバスであつて、車内の右側前方にある運転者席に座つたままでは、車体の右側面から〇、九〇メートル、その前面から一、二〇メートルの距離内にいる身長一メートルの児童などは、これを見とおすことができない構造であつたこと、当時本件自動車には運転助手及び車掌が乗務していなかつたし、本件自動車を駐車させた附近の道路には二三人の児童が遊んでいたことが認められる。このような状況で自動車運転者が進行を開始する際には、警笛を鳴らして、自動車の近辺の人に発車を予告し、また自動車に接近する児童などは、運転者席に座つたままではこれを見とおすことができないこともあるのであるから、運転助手及び車掌が乗務していない以上、自ら車体の外側を見廻るなどして、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があることは、当然である。しかるに、前記認定の事実に前掲甲第五号証の二、甲第六号証及び甲第一〇号証を総合すると、控訴人印南は、団体客が参拝を終つて再び本件自動車に乗車すると、警笛も鳴らさず、また運転者席に座つたままで、自ら車体の外側を見廻ることもしないで、直ちに自動車の方向を右斜前方にとりながら、進行を開始したため、たまたま本件自動車の右斜前方にこれに接近していた猪瀬和夫に気附かず、本件自動車の車体の右側部を接触させて同人を転倒し、その頭部を右側後車輪でひくにいたつたことが認められるから、本件事故につき控訴人印南に過失があつたものと言うべく、従つて同控訴人は本件事故による損害を賠償すべき責任がある。
(角村 菊池 吉田豊)